2013年9月17日火曜日

『むくり屋根』と日本人

   先週の続きで『むくり屋根』について書こうと思う。

   世界中を見渡しても『むくり屋根』を本気で作っているのは日本人だけだと先週末に書いた。だがなぜ日本人はその『むくり屋根』というカテゴリーを独自に持ったのだろうか?もちろんコレという理由ははっきりはしない。だがいろんな仮設はたてれると僕は思う。あくまで僕の仮設ではあるが、つらつら書いてみようと思う。

   専門的になって恐縮だが、その一番の理由はやはり構造にあるだろう。僕ら設計屋が家を木造で建てる場合、大抵は和小屋と言われるカタチを作る。和小屋とは、水平材である小屋梁の上に束という垂直材をのせ、その上に母屋という水平材をのせる形式だ。一方ヨーロッパなどではトラス構造または洋小屋と言われるカタチをとる。トラス構造は、大きな水平材と垂直材、そして斜め材である方づえで構成された三角形の小屋組のこと。和小屋の場合、比較的簡単に『むくり』を作る事が出来る。なぜなら梁の上に乗る束の長さを調整すればすむからだ。だが、トラスだと難しい。トラスはその三角形のカタチで力のバランスを保っているので、むくませて曲線を出そうとするには不向きなカタチである。自然と『むくり屋根』という発想はなくなるだろう。

   また神道も関係しているのかも知れない。式年遷宮で賑わう伊勢神宮内宮は、よく見るとむくんでいる。これはもちろん草で葺いているからでもあるが、やはりあえてむくませている。内宮は20年に1度づつ作り直しているわけで、むかしのカタチを微調整しながら今のカタチとなっていると考えるのが自然だ。神様なので威厳があると考えるのはどことなく大陸的である。土着の宗教である神道はそもそも大陸とは違い、偉いであろうが厳しくはない。なので、大陸的な威厳は好ましくなかったのかもしれない。またこの伊勢神宮内宮などの建物がずっと今日まで残ることにより、1つのカテゴリーとして確立されたのかもしれない。
   余談的に書けば、伊勢神宮内宮は明らかにカタチは倉庫だといえる。倉庫を神と崇めるのは日本独特だと言えるが、そのカタチはどことなくカワイイ。これが大陸だとどことなく厳めしい反り屋根の畏敬する対象の神様となる気がする。奈良時代に入り、中国の文化や制度、そして職人らを大量に輸入した日本であるが、伊勢神宮が持つむくりのカタチはそのままのこした。もちろんあの中国式の反り屋根に対する反発もあったのは間違いないだろう。中国と朝鮮そして日本の反り屋根を比較すると、明らかに日本に近づくほどその反りは柔らかい。やはりどこか日本の神様は可愛くないといけないようだ。

   また日本の特殊な身分制度の影響もあるだろう。日本の身分制度はとても厳しかった。江戸時代に作られた士農工商は建物にもしばりがあり中々うるさい。一番分りやすいのが門である。侍は門を持っては良いが、その他の身分の人々は門を持つことが許されなかったと聞く。もちろん例外はあるであろうが、基本厳しかった。だが商人らはもちろんお金持ち。実は侍は商人に頭が上がらないが、身分は上だ。仮に武張った反り屋根もつ家を商人らが作ったらどうだろう。今でも出る杭を打つ国民性である日本なのであるので、いちゃもんつけられかねない。だがむくり屋根であるとどこかお辞儀しているようでカワイイ。もちろん品もある。なので自分の家をおしゃれに作りたい、また威張る必要もない商人らは競ってむくり屋根を作ったのかもしれない。

   僕が幼い頃などは、カワイイむくり屋根を持つ日本家屋が残っていた。だが最近はほとんど見ない。やはりそれは、手間を省きたい工務店の考えもあるし、家主さんらはむくり屋根の魅力が分らないからだと思う。前回も書いたが、最近つとに古民家風の新築を頼まれる事が多い。僕としては町並みを柔らかく調和させるので『むくりませんか?』と聞くのだが、大体はぽか~んとされてしまう。そこまでは望んでねぇ~よという顔だ。。

   シャープな外観が好まれる最近の住宅事情ではあるが、すこしむくみたい気もしている。

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