2012年11月21日水曜日

ただ、五方良しの建物を作りたいだけ

   昔、近江商人と呼ばれる人々がいた。今で俗に滋賀県出身の企業家をそう呼ぶ場合もある。その近江商人の言葉に 『三方良し』 という言葉ある。これは単に売り手の利潤のみを求めるだけではなく、買い手も満足し、なおかつ地域に貢献する商売の決まり事。まあそんなとこだろうか。最近お仕事で施主さんとお話をする機会が多いのだが、毎度の事この言葉を思い出している。僕が東京でホームインスペクションという仕事をしていた頃、所属していた会社の社訓が 『三方良し』 だった。何度も書いていて恐縮だが、インスペクションとは新規の建物の場合は施工精度を調べ、そして既存の建物の場合は依頼された建物の劣化具合を調べる。依頼者である買い手も納得し、その診断業務で知識を切り売りする僕らも利益をあげ、そして住宅流通を円滑にする。なので 『三方良し』 といったところだろうか。僕が現在宮崎の片田舎で設計業務をやっている。僕は最近、この『三方良し』ではなく 『五方良し』 でいけたらいいなと思って来ている。まあ理想に現実は追いついてはいないのだが。。

   僕が思っている 『五方良し』 とは、施主さんも納得の金額とデザイン。そして設計屋である僕も納得する良い建物。そして実際に施工する工務店もちゃんと利益をあげ、そしてその工務店の下請けである各職人さんもよい仕事ができる。さらにその地域の景観を美し町への発展へ寄与する。そんな建物を作っていきたい。

   最近の風潮だろうか。施主さんは色々なハウスメーカーや工務店、そして設計屋を競争させる事が多くなった。僕が現在手がけている建物も他7社と競争だった。いわゆる、コンペというヤツだ。僕の経験からするとコンペをすれば確かに値段はぐんぐん下がる。だがそれで良い建物を作れるかと言えば、とても疑問が残る。仮に2ヶ月ぐらいコンペをやったとする。そして他社を出し抜き取れたとしても、利益はほぼない。もちろん下請け業者をたたかねばならず、みな嫌々仕事をする事になる。間取りなどの要求は施主さんの希望を叶えてやりたいので、家の大きさは大きくなりがちだ。という事は、内装や附属設備がとてもちゃっちくなる。大抵の場合、施主さんは景観の事はあまり気にしない。なのでチンチクリンな家が出来上がってしまい、のちに後悔する事が多多ある。もちろんその家だけでなく、地域にも迷惑をかける事だってある。もちろん設計費用など、頭から抜かねば家なんぞ建たない。もちろんそうならないように気おつけてはいるが、中々難しいもんだ。。

   また、コンペの場合、もちろんの事落ちることだってある。施主さんの希望と予算に見合わない場合は、どうしようもないからだ。しかし、そうなったらキツイのは設計する側と下請け業者。仮に1月(大抵2月ぐらい。。)プランニングにかけたとして、そのコンペで落ちたら給料は0円。一円もでない。という事は、落ちることも覚悟の上の食えない設計屋が挑戦する事となる。また、他の利益がでる仕事を優先する必要から、つきあい程度の図面しか書いてあげない。まあそんなところだろう。どこかで保険を担保していないと赤字になるからだ。また下請け業者の職人さんだってつらい。時間をかけて見積もりを作ったところで、お金がでない場合だってあるからだ。施工業者は平謝りだし、みんなすごくへこむこととなる。もちろん出来上がった他社の家を見て、みんなぶ~ぶ~いう。

   世の中、コンペが当たり前となってきた。別に僕はコンペが格段悪いと言っているわけではない。僕はえらいもんで、コンペはほぼ負けたことがない。だが、だからこそよく分かる。勝っても泣き、負けても泣く。そして出来上がっても泣く。そんな場面をよく見てきたからだ。僕が設計業界に入った頃、コンペとは大きな会社ビルなどではあったが、個人宅ではそれほど多くはなかった。価格が大きい場合はそりゃコンペをやった方がよいだろう。だが、個人宅は予算の限度がある。これでコンペをやる場合は注意した方がよいといつも施主さんに注意を促している。五方良しで無ければ、良い家などは作れないし、その家は繁栄などはしない。

   これから家を作ろうと思う方は、こんな裏事情を知っていても損はない。そんな気がする。

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