2012年11月25日日曜日

イームスのケース・スターディー #8

   設計などのお仕事をしていると、おしゃれな家を求められる事が多い。いわゆるデザイナー住宅だ。僕はこのデザイナー住宅をあまり良しとはしない。どこかデザイナーと言えば、近代的なモダニズムに重きを置きすぎ、良い家にはなりにくい思いがあるからだ。一般的に施主さんは僕ら設計屋のように、建物の事を年がら年中考えている訳ではない。なのでしょうがないのだが、家を作る場合、最初に目が行きやすいのが、まあ、そんなとこなんだろうと思う。一般的に工務店が作る建物に設計屋さんは本気では入れない。それは予算の問題だ。本気設計屋が入れば、その給金が発生する。おおよそ坪辺り5万ぐらいは多めに見ないと採算が合わない。よって建築デザインの本を一冊も読んだことがない大工さん作の一般的な普通の家が出来上がる。これを最近の施主さんはとても嫌う。なので、でざいな~住宅となるんじゃないかと思う。まあ、大工さんがデザインした物が特に悪いとは思わないが、一般的なものじゃ嫌なのかも知れない。思うんだが、おしゃれな人が住む普通の家と、そう出ない人が住むおしゃれな家では、前者の方がおしゃれに見えてくる気がする。家という物はおしゃれで作るのではなく、良い家を建てる方が幸せだと思う。

   アメリカの近代家具デザイナーにイームス夫妻という人がいる。モダニズム・デザインが一気に花開いた時代を代表する作家だ。アメリカが一つの文明として定義できるとすれば、彼らの作品はその文明の影響力を存分に発揮し、世界中の注目を集めた。ある意味デザイン黄金時代の作家と言える。その家具は、合板を曲げて作ったり、強化プラスチックやワイヤーを駆使して作られていたりする。家具デザインで一気に有名になったイームスだが、その原点は建築にあるらしい。そもそも大学では建築学を専攻している。現在のイームスのほとんどの家具は、残念な事に材質を安価な物に変えられてしまい、当時の重くて重厚感のあった素材は使用されてはいない。量産しないと利益が上がらないからだろうと思う。まあしょうがないとは思う。

   僕が設計を始めた頃、とあるテレビ番組でイームスの自宅を特集していた。建築をやっているものからすれば、シンプルに徹しており、強烈に素敵とは思わなかったが、イームスの建物に対する理論のようなものが整然としており、妙に頭に残った。そのほとんどの外部を幾何学的なフレームとガラスで構成された彼らの自宅は、緑に囲まれた閑静な場所にある。1階はリビングとなっており、そのリビングは大きな吹抜け。外部の光を取り入れるためとても明るい。そして2階が寝室などのプライベートスペースとなっている。まあ、ロサンゼルスの温暖な気候だからこそ成り立つわけで、日本で作ったら寒くてたまらないだろう。だが面白いのが、この建物、当時のアメリカに流通していた既製品のみで出来ており、とても安価に作れるという事だ。イームスらしい考えで出来ている家と言えると思う。家具と家、インテリアデザインの融合を実証した家として現在でも多くのファンが訪れると聞く。研究すればするほど良く出来た良い家だ。

   この家の名前は正式には ”case study #8” という。 case study とはデザイン屋が勉強のために空想で設計する事やその試作品をいう。家という物は、おしゃれに作る事を主眼に置く物ではなく、その家具や生活する人が素敵であればそれで成り立つ。そして、その方がおしゃれだと気づかせてくれた。そんな建物なんだ。

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