そのマンションの現場は神戸市の垂水区だったと思う。明石海峡大橋が美しく生えるすてきな場所が敷地だ。話によると、昔からその場所に住んでいた住民が結婚を期にその場所にマンションを建てて、その一室を新居としようという考えである。さぞかし最上階は明石海峡大橋がよく見えるのだろう。なので近隣住民8人ほどと近くの私立学校の女オーナーを案内書片手に施工業者さんが集め、家主夫婦と施工業者の社長さん (リンカーンに乗っている) そして現場監督や職人さら総勢10人程度。そしてうちの社長さんと筆記である僕が出席した。
のっけから大もめである。近隣住民のおじいさんらは激しい口調で 『頼むから作らないでくれ』 という。思わず僕も頷いた。そりゃそうだろう。僕から見ても美しい明石海峡が台無しになるマンションだ。それに敷地ぎりぎりで建てるために近隣住民の日照権は久しく侵される事になる。だがあくまで説明会なのであって、相談会ではない。近隣住民への配慮はこれくらいしていますよという自己満足の世界である。爺さんらが反対しようが業者は関係ない。近隣説明会はしましたよというカタチが欲しいのである。なのでもめるに決まっている。 『あんたら !! 我々がいくら反対しようが関係なんじゃろ !! 』 実にごもっともである。ハナから反対を受け付けるような美しい心などは業者は持っていない。

説明会が終わり、業者の反省会となる。というか女の子がいる店に行く。そしてあの爺さんがうるさいだとか、学校のオーナーが頭がおかしいなどとクダを捲く。もちろん家主もその場にはいないので、もう柄の悪い事ここに極めりである。みんながみんな、くわえ煙草で姉ちゃんの肩に手を回し酒を飲んでいた。ろくなやつらではない。。うちの設計屋の社長も含め人として狂っていると思った。
その胸くそ悪い説明会で1つだけ強烈に覚えている事がある。業者さんに必死で抗議するおじいさんに 『どうしても建てて欲しくないのでしたら、役所に行って条例を変えて下さい !! 』と強く言った事だ。確かにそのとおりではある。条例上建てて良いのだから建てるのである。いくらその業者が胡散臭くても、設計屋が腕がなく、また美しい建物を作るつもりがなくても条例上建てて良いので建てるのである。そこには景観上の配慮も、そして近隣住民への配慮も全く無い。
僕は、そろそろ建物に関してすこぶる厳しい条例を作るべきだと思う。町並みから建物をどうするべきか真剣に考えるべきであると思っている。そうでなければお金のために町をボロボロにするような業者がはびこるモトとなるんだと思う。知らない人は知っといた方が良いと思う。すべての設計屋が美しい建物を作ろうとは思っていないことを。
先週末に僕の家にでっかいマンションの広告が入っていた。好評分譲中なのだという。僕はこういったマンションの広告を見る度に近隣住民説明会を思い出す。その説明会では爺さんらがとても悲しい顔をしていた。日本はそんな町並みこれからも量産していくだろうし、同じように爺さんらが泣く事になるだろう。それが本当に良い国なんだろうかと、好評分譲中というチラシを見て疑問に思った。