2013年8月1日木曜日

イタリア大使館別荘という景観美の世界


   設計をする立場のものとして、もちろんの事だが有名建築家が作った家などの資料を買いあさり読むことが多い。以前から書いているように、僕は留学先のアメリカから帰国し日本の町並みや景観に絶望し設計という業界に入った。なので建築家と言われる人々が作るような大きな建物自体には格段の思い入れはない。だがさまざまな資料を読みあさるうちにそういった建物にも興味がわいてきたので、自分の設計に生かそうと僕なりには研究をしている。以前、どの本だったかは忘れたのであるが、ふと開いたページにドキっとした。その建物は日光にある中禅寺湖の脇にたたずんでおり、その開口部は中禅寺湖を見れるように湖側に配置してある。まわりには森林が青々として建物の寸前まで迫っており、自然の中に溶け込んでいるのだが光り輝いている。とにかく美しいのである。その建物は旧イタリア大使館別荘という。アントニン・レーモンドという人の作品である。

   平面図を見て頂ければわかるが、とてもシンプルな作りとなっている。以前にも書いたがとあるが、まだ僕が駆け出しの頃、とある建築家に言われた言葉を思い出す。『君ら若手は良い建物を作ろうと悩んで悩んでぎりぎりになって建物を作るだろ?僕は簡単なのを先に作ってそこから錬っていくんだ。だけど僕の方が君らより良い建物を作っていくよ』 当時はホント嫌な奴だと思ったりしたが、最近、なるほどアンタの方が正しいと思えるようになってきた。

   この建物の間取りもそんな考えで作られているのかも知れないと思っている。正直、考えて考えて作られたという配置ではないように思える。だがその外観や内部の意匠はとてもまねできるものではなく、さすがレーモンドさんといった感じだろう。書斎から居間と食堂抜けるような真っ直ぐな配置。そして中禅寺湖を見るためにあるような広縁。そして食堂脇には休憩室という小部屋が用意されている。この建物は大使館別荘であるので、込みいった話をする時に使われていたのかも知れない。単純な中にもお気に入りとなる空間が用意されているのが嬉しい。

   何でも平成9年まで歴代のイタリア大使が使っていたそうである。現在は栃木県が買い取って一般に公開されているそうだ。なんでもこの別館をイタリアが手放した時には、その大きな開口部のため建物は傾き、危険な状態であったようだ。そりゃそうだろう。なんせ完成したのは昭和3年でる。なので基礎から補修を入れ、再利用できそうな床板や建具、家具などは以前から使われているものを使い、内外装などはできるだけ復元させるという大変大がかりで、お金がいっぱいかかる工事を実行。現在の記念公園の一般公開となっている。本当に栃木さんは偉い !

   僕は設計屋としていずれはこのような建物を作りたいと思っている。その風景を崩さず、そして自己主張もしないが輝いて見えるような建物を作りたい。周りの風景を切り取って建物に反映させるこの建物は秀逸であり、レーモンド建築は僕の目標である。

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