2012年11月10日土曜日

景観まちづくりに舵を切る

延岡市都市景観賞
   僕が設計の道に入ったのは、日本の町の景観に絶望したからだ。アメリカに住んでいる頃は建物についてほとんど考えた事が無かった。そして建築という物がそれほど奥が深い世界だとも思ってはいなかった。なので大学の専攻は政治学。現在のお仕事とはまったく畑違いだ。日本に帰国後、宮崎県木城町の町境に必ずある、 『環境美化宣言の町 木城町』 という看板がめちゃめちゃ錆びているのを見つけ、こんな国には住みたくはないと思った。景観と建築について考えるようになったのはそれからだ。日本を捨てるのは簡単だった。アメリカにいた会社からは、戻ってくれないかとのありがたい誘いもあったし、給料もよかった。だが、死ぬ場所は日本と決めていたので、思い切って建築の世界に入った。設計のお仕事をしながら、いかにこの国の景観を美しくするか日々もがいている。

   先日、セミナーがあったのだが、会場には早く到着したので本屋さんに入った。僕は大きな本屋さんに行くと必ず建築コーナーに立ち寄る。大抵そこには、素敵な家といった一般の方が読まれる本や、建築に関する学術書などのお堅い本は並んでいるのだが、景観について書いている本はまずない。日本の景観をなんとかしたいとお思っている人々は多いと聞く。しかしまだ景観学という学術分野の確立がされていないこの日本、その専門書が置いていないのはしょうが無いのかもしれない。仮にあったとしても、フランスなどの景観に関する学術書みたいなお堅いだけの本や、写真が全く載ってない、載っていてもなぜか白黒写真だけの本なので読む気がしない。なんだが、この宮崎という田舎の本屋には珍しく一冊だけあった。名前は 『市民のための景観まちづくりガイド』 というものだ。筆者は藤本英子さんという女性の方だ。筆者の写真を見たら、こりゃびっくりの美人。美人のいう事は常に正しいと信じている僕はあっさり買ってもうた。読んでいると、景観に関する考えが深くて面白い。写真もちゃんとカラーだし、いかに景観を作るには市民の手助けが必要かよく分かる。そんな本だ。久しぶりに出会った名書だと思う。

   僕は工務店に勤めている。主に工務店では設計を担当しているのだが、工務店などに勤めていると景観に配慮した設計という考えなどが日本には皆無だという事がよく気づかされる。僕が勤める西都市には景観条例は一応ある。大きな建物は作ったらいけないとか、派手な色を使ってはならないなどの決まりとなっている。だが、景観先進国の条例と比べてその景観に関するしばりは非常に弱い。そしてもちろん罰則もない。そしてその条例さえ多くの工務店は邪魔くさい対象としか考えていない。基本的に工務店は建物を作ってナンボの世界。多くの工務店の従業員は本さえ読まない人が多い。そりゃ景観に対する配慮なんて元来持ち合わせてはいないし、そんな志などを持っていたら迷惑がられる。そんな世界だ。

   では施主さんはどうか。施主さんも頭から景観に対する配慮などは考えてない。施主さんにあるのは、 ”どの土地に、いかに使い勝手の良いかっこいい建物を安く作るか” が主眼であり、景観に配慮し、その建物をいかに町に参加させるという考えは皆無と言ってよい。多くの施主さんは家のプランニング時、いろんな ”素敵な家” 的な本を持ってこられる。そこにはおしゃれな家が載っているが、記載されているのは個々の家であり、その周りの通りから見た景観良しの家ではない。

   『市民のための景観まちづくりガイド』に載っていたのだが、フランスの法律には、 ”建物は公共物である” という一文が載っているそうだ。実に素晴らしい事だと思う。まだまだ日本の家に対する考えは鎌倉時代からの一所懸命だろうが、そろそろ点で物を考えるのではなく、面で物を考えて行かなくてはいけない時期に入っている気がする。

   最後に、日本の景観に関する法律が出来たのは2004年。しかしこの一年前に出された 『美しい国づくり政策大網』 の中に異例の一文が載っていてちょっと話題になった。この一文が発表された時、僕はしびれたので書いておきます。

  国土交通省は、この国を魅力ある国にするために、まず自らの襟を正し、その上で、官民挙げての取り組みのきっかけを作るよう努力すべきと認識するに至った。そして、この国土を国民一人一人の資産として、我が国の美しい自然との調和を図りつつ整備し、次の世代に引き継ぐという理念の下、行政の方向を美しい国づくりに向けて大きく舵を切ることにした。
   やるじゃないか、国交省。

   かっこいいぞ、国交省!

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4 件のコメント:

  1. 台風14号で高千穂鉄道の一部が北方で流された頃、浸食の進む海岸にコンクリートを張るという話が県で上がって、『砂浜を守ろう会』の仲間の方たちと、景観セミナーに出席したのを思い出しました。

    当時の県知事がなんやかんやコメントした後に、東京から来ていた専門家であるシンポジストさんが『宮崎の川沿いには、マンションやらなんやら、ビルが並びすぎていて景観を著しく損なっている。とても残念です。』と話され、私は『言われてみればそうだな…』と思いました。
    言われてみないと分からないくらい、景観美を知らない…という事です。

    高千穂鉄道、廃線が決定した時、悲しくて仕方なかったです。
    深緑の川沿いを走る列車こそ、景観美だったのに…

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  2. 高千穂鉄道が廃線になったのは僕もとても残念です。
    採算が取れないのは分かっているのですが、廃線なら廃線で別の使い方を考えなくては勿体ないですよね。

    それに、普通は気づかないもんだと思うんですよね、景観の美しさという物は。僕もアメリカにいなかったら気づいてなかったと思うんです。

    景観から来るストレスとか数値に表すことは難しいし、日本人の美しいは、ホウキではわく事という意味程度であって、景観からの感覚はあえて目をつぶっているってのが現状だと思うんです。

    浸食を防ぐのは僕は賛成ですが、その防ぎ方が問題で、景観を第一に考えた工法でやって欲しいと僕は思います。その方が町の価値を上げるし、業者としても最終的には評判を上げると思うんですが、まだまだそんな考えは持っていない業者ばかりで悲しいですね。

    日本人はいつもこんな時には折衷案(せっちゅうあん)を持ってくるんですが、それではダメで、今より美しく、且つ、よりよい機能を持った防波堤。もちろんそこには日本をちゃんと入れて作るべきだと思うんです。その方が観光客は来るだろうし、少なくとも悪い影響を町には残さない気がするんです。

    ホント土木や建築業者の浅はかさにはうんざりします。

    景観に対する志を元々持ち合わせてはいない民族なんです、日本人は。

    だけどもね。。

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  3. おはようございます。
    丁寧なお返事ありがとうございますm(__)m

    海岸は、海ガメさんの事もあるので、なんとかならないかなと思いますよね。
    日本の領土も狭すぎてビルの寿司詰め状態ですし…

    だからこそ、木城や西米良、椎葉、綾etc…の景観は、国を上げて大切にして頂きたいですね(^-^)

    あ、高千穂鉄道で走っていた列車は、現在『海幸・山幸号』という観光列車として日南海岸を往復しているみたいです!
    あと、高千穂の『道の駅』では、列車ごと飲食店にしたり、高千穂駅では運転の体験が出来るみたいです!
    枕木のあった路線の一部は、やはり観光用の遊歩道に還元しているとか!
    景観男さんの考え方そのままですよね(^-^)

    株主も泣く泣く…だったので、そんな再利用の在り方を嬉しく思いました。

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  4. おお、高千穂鉄道もがんばっているみたいですね。
    僕は小五の頃一度だけ乗った事があるんですが、車に追い抜かれる電車は素敵すぎました。

    せっかくの田舎を壊して欲しくはないですね。
    もちろん利便性も考えて行かなくてはならんですが。

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